(1) 移転価格税制に係る文書化が行われた背景
BEPSプロジェクト(公正な競争条件(Level Playing Field)という考え方の下、多国籍企業が国際課税のルールと世界経済及び活動実態とのずれを利用して課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行うことがないよう、多国籍企業の透明性を高めるとともに、各国の税制や国際課税ルールを現代のグローバルなビジネスモデルに適合するよう再構築する取組)では、平成27年10月、多国籍企業のコンプライアンス・コストに配意しつつ、多国籍企業の透明性を高めることを目的として、多国籍企業グループに対して、ローカルファイル、マスターファイル及び国別報告書の3種類の文書を共通様式に従って税務当局に提供することを義務付ける勧告が示されました。 多国籍企業グループが進出国ごとに異なる移転価格文書化制度に合わせて文書化を行うとすれば、コンプライアンス・コストが上昇するという懸念がありましたが、各国共通様式に従い文書化を行うことで、全体としてコンプライアンス・コストが低減されることが期待されています。 国際課税ルールの見直しにより、国際課税ルールと活動実態のずれを利用する多国籍企業とこのようなずれを利用していない多国籍企業の公正な競争条件が確保されることが期待されています。
(2) 平成28年度税制改正
上記(1)のような状況を踏まえて、日本では、平成28年度の税制改正において、原則として、①国別報告事項、②マスターファイル、③ローカルファイルの3つの移転価格文書の提出が必要とされ、「移転価格文書化制度」が再整備されることとなりました。
このうち、①国別報告事項と②マスターファイルは、平成28年4月1日以後に開始する会計年度において、直前会計年度の連結総収入金額が1,000億円未満の多国籍企業グループは提出が免除されていますが、②マスターファイルはグループ事業の全体像の把握を可能にするために作成されるものであり、例え基準金額(連結売上高が1000億円未満)に満たない場合であっても、経営管理の観点からは作成しておくことが推奨されます。
また、③ローカルファイルは、平成29年4月1日以後に開始する会計年度における海外子会社等との「前期の取引金額(受払合計)」が50億円以上(ロイヤルティなど無形資産取引の場合は3億円以上)の場合、確定申告書の提出期限までに作成する必要があります。
(3) 3つの移転価格文書の概要
新たな移転価格文書化ルールとして、①国別報告書、②マスターファイル、③ローカルファイルの3つのレポートを作成すべきであるとされておりますが、それぞれの概要は下記の通りです。
① 国別報告書:国別に合計した所得配分、納税状況、経済活動の所在、主要な事業内容等を記載したもの
② マスターファイル:多国籍企業の事業概要(全体像)を記載したもの
③ ローカルファイル:個々の関連者間取引に関する詳細な情報を記載したもの
(4) 移転価格文書化の適用開始年度
国別報告事項及び事業概況報告事項は平成28年4月1日以後に開始する最終親会社会計年度、ローカルファイルは 平成29年 4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。