Question
当社は、A社に対して6年前より1,000万円の貸付を行っておりました。
しかし、5年ほど前より、A社は時価ベースで資産状況を見ると債務超過の状態になっており、かつ、業績等からみて、この貸付金を回収する見込みが全くない状況にあります。
そのため、当期において書面によりその有する貸付金1,000万円の全額について債権放棄を通知しました。
この場合の、法人税の取り扱いを教えてください。
Answer
(1) 結論
その債権放棄の通知を行った貸付金1,000万円は、その通知を行った事業年度である当期の貸倒損失としてその損金の額に算入されます。
(2)内容
①概要
書面による債権放棄を行なった場合、貸倒損失として損金算入されるためには下記の3点の要件を満たす必要があります。
(イ)債務超過の状態が相当期間継続していること
(ロ)金銭債権の弁済を受けることができないと認められること
(ハ)債務者に対して書面により債務免除額を明らかにすること
ご質問のケースですと、上記3点を満たしていることから、当期の貸倒損失として損金の額に算入されると考えられます。
②「債務超過の状態が相当期間継続していること」について
(イ)債務超過について
債務超過とは、負債の総額が資産の総額を上回っている状態をいいます。
この場合の債務超過の判定は、時価ベースで行います(帳簿価額ベースで判定を行うのではない点、ご注意ください。)。
そのため、債務者が有している資産・負債について含み益や含み損がある場合には、その含み益及び含み損については、債務超過の判定上考慮する必要があります。
これは、その債務者の支払能力を判断するために行われるものであることから、時価ベースで判定を行わなければ意味がないものになってしまいます。
債務超過の判定を行うにあたって債務者の決算書やその他の情報を入手することが難しいケースもあることでしょう。
その場合には、決算書から判断するのではなく、債務者の信用状況や、資産負債の状況等を総合して判断することにならざる得ないと考えられます。
(ロ)相当期間とは
相当期間は具体的な期間は規定されておりません。
一般的には3年から5年といわれることが多いですが、個別事情を考慮して検討すべき事項になると思われます。
③「債務者に対して書面により債務免除額を明らかにすること」について
この場合の書面とは、公正証書等の公正力のある書面により通知する必要はありません。
しかし、後日行われる税務調査に備えて、債務者から受領書を受け取ったり書面の交付した事実が残る内容証明郵便などにより通知を行うことも検討するべきでしょう。
(3)留意点
①損金算入の要件を満たさない場合には、A社に対する経済的な利益の供与に該当することから、法人税上は寄附金として処理を行うことになると考えられます。
この場合、A社との間に完全支配関係がある場合には、全額損金不算入、完全支配関係がない場合には、原則として一般寄附金とされると考えられることから、その債務免除額のうち損金算入限度額を超える部分の金額については損金不算入とされます。
なお、特殊な状況下の元に債権放棄する場合にはこの限りではないため、要件を満たさないからといって一概に寄附金に該当するとは言い切れない点、ご留意ください。
②ご質問の場合、貸付金は法的に消滅していることから、会計上、貸倒損失として処理を行わず資産として残っていたとしても、法人税上は強制的に貸倒損失を認識することとなります。
この場合、申告調整により減算調整を行う必要があります。
【参考法令等】
法人税法22条③
法人税法基本通達9-6-1