(1)概要
請求書や領収書などの証憑類をなるべく保存しておく必要があることは十分理解されていると思いますが、そうは言っても場所を取ってしまうものです。できる限り処分したいでしょうが、処分した後にトラブルが起きて、証拠が残っていないという状況になってしまってはいけません。
税務上のリスク(問題点)が生じないようにするため、最低限保存しなければならない書類は何なのか、このページにて解説を行います。
(2)証憑書類の保存期間
①法人税について
法人における証憑書類の保存については、法人税法の定めにより、原則として作成日や受領日が属する事業年度終了日の翌日から2ヶ月を経過した日(当該事業年度分の申告書提出期限日)を起算日とし、7年間の保存が義務付けられています。
ただし、平成23年12月の税制改正により、青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越期間が9年とされたことに伴い、平成20年4月1日以後に終了した欠損金の生じた事業年度においては、帳簿書類の保存期間が9年間に延長されました。
黒字決算・赤字決算を繰り返している法人の場合は、基本的に9年間保存することにより、誤って破棄してしまうという事態を避けることができます。
さらに、平成27年度及び平成28年度税制改正により、平成30年4月1日以後に開始する事業年度において欠損金の繰越期間が10年に延長されたため、帳簿書類の保存期間も10年間に延長されていますので、注意が必要です。
なお、平成16年以前は中小法人以外の普通法人と中小法人で保存期間に違いがありましたが、現在では規模を問わず、法人の場合は一律上記の保存期間が必要となっています。
②消費税について
消費税法においては、消費税の課税事業者が本則課税により仕入税額控除を受けるためには、請求書や領収書などの証憑書類を保存しなければならないと定められています。
保存期間は、法人税法の定めと同じく、事業年度終了日の翌日から2ヶ月を経過した日から7年間とされていますが、最後の2年間は会計帳簿か請求書等のいずれかを保存しておけばよいこととされています。
また、以下のいずれかの場合にはその事実を記載した帳簿の保存だけで良いとされています。
・課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円未満である場合
・請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由がある場合
また、その帳簿については、以下の事項を記載しなければなりません。
<記載事項>
・課税仕入れの相手方の氏名又は名称
・課税仕入れを行った年月日
・課税仕入れに係る資産又は役務の内容
・課税仕入れに係る支払対価の額
(3)契約に至らなかった見積書の保存について
取引先から受領した見積書のうち、契約にいたらなかったものの保存期間については、法律上の定めはありません。
見積書には有効期限が明記されていることが多いかと思いますが、有効期限が明記されている見積書については、民法上、以下のように定められています。
民法第521条
①承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない。
②申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。
つまり、見積書に明記されている有効期限内で契約に至らなかった場合、その見積書は効力を失いますので、保存の必要はありません。
ただし、法律上は保存義務がなくても、別の案件の参考資料にしたり、価格交渉においてのツールとして活用したりすることもできるため、社内ルールを設けて一定期間保存しておくのも有用でしょう。
(4)証憑書類の保存方法
受領した書類の保存は、原則として紙媒体で保存しなければなりません。そのため、取引先からPDFなどで受領した請求書なども、プリントアウトし、紙媒体で保存することが原則となります。
しかし、平成10年に施行された「電子帳簿保存法」により、作成当初の記録段階からパソコンなどで電子的に作成された文書については、電子保存が認められるようになりました。
その後、平成17年3月の改正により、紙媒体の書類もスキャナで読み取り、電子化して保存することが認められました。
さらに平成17年4月に施行された「e-文書法」により、ほとんどの書類において電子化された文書ファイルでの保存が認められるようになり、平成27年、28年の税制改正によりスキャナ保存の要件が緩和され、以前よりも書類の電子保存に取り組みやすくなりました。
ただし、文書をスキャナ保存するためには、管轄税務署への承認申請が必要であったり、緩和されたとはいえ電子署名やタイムスタンプを付さなければならなかったりといった細かい要件を満たす必要があります。
(5)書類の保管期間について
証憑書類の保存期間については上記のとおりですが、会計帳簿(総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳など)や、決算書類(青色申告決算書など)の会社法に関わる帳簿書類については、10年間の保存期間が定められています。
証憑書類の保存期間と混同することがないよう、注意が必要です。
【参考法令等】
法人税法施行規則59条、67条
消費税法30条⑦⑧
消費税法施行令49条①、50条
会社法432条
会社法435条
電子帳簿保存法2条六
電子帳簿保存法施行規則8条