Question
国外転出時課税制度について教えて下さい。(国際税務)
Answer
(1)国外転出時課税制度の概要
国外転出時課税制度とは、例えば日本居住者がに国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることをいいます。)して非居住者となる場合に、その国外転出時に、その者が保有する有価証券等の一定の対象資産について譲渡等があったものとみなして課税を行う制度です。
国外転出時課税制度の適用対象となるケースは、下記の2つの要件を満たした場合における個人の国外転出した場合と、非居住者が国外転出時課税制度の対象資産が贈与・相続・遺贈等により取得した場合になります。
<適用要件>
①下記の金額の合計が1億円以上であること
(イ)有価証券、匿名組合出資持分の時価
(ロ)未決済信用取引等の額
(ハ)未決済デリバティブの額
②国外転出する日前10年間以内において、5年を超えて日本に住所又は居所を有していること
住所とは、各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によることとされておりますので、
そのため、必ずしも住所登録を行なっている場所が住所とは限りません。
また、生活の本拠とは、住所、職業、配偶者及び親族の状況、資産の所在地等の客観的事実に基づいて総合的に判断するものとなります。
なお、含み益または含み損があるかどうかにかかわらず、全ての対象資産の価額の合計額が1億円以上となる場合には、国外転出時課税制度の適用対象となります。
また、譲渡による所得が非課税となる国債、地方債等の公社債、NISA 口座内の有価証券や国外で所有等している資産についても、国外転出時課税制度の対象資産として1億円以上であるかどうかの判定に含める必要があります。
(2)国外転出時課税制度の対象資産
国外転出時課税制度の対象となる資産は下記の通りです。
①所得税法上で規定されている有価証券
株式、出資、公社債、投資信託、新株予約権等
②匿名組合契約の出資持分
③未決済信用取引
④未決済デリバティブ取引
国外転出時課税制度の対象とならない資産は下記の通りです。
①預貯金
②不動産
③貸付金等の金銭債権
(3)国外転出時課税制度が導入された背景
日本居住者が株式を売却する場合には、15%、20%等の税率により所得税が課税されます。
しかし、日本の居住者が海外に居住し、日本での非居住者となった状態で海外で株式を売却した場合には、通常、日本での課税は生じません。
そこで、このような法制度を利用して、個人が含み益を有した株式などを有したままシンガポールや香港などのキャピタルゲイン課税が生じない国(又は軽課税地国)に出国し、同国で当該株式を売却した場合には、課税を回避(又は軽減)することが可能となります。
このような、日本での課税権の回避を図ることを防止するため、国外転出時課税制度を導入し、国外転出時に日本で課税を行うということがこの制度の趣旨となります。
(4)住民税について
住民税は、その年の1月1日における居住地における前年所得を基準に課税されます。
したがって、国外転出時において有価証券等の譲渡があったものとして所得税課税が生じる場合であっても、翌年の1月1日には国内に住所を有さないため、住民税の所得割は課されません。
(5)海外での国外転出時課税制度の事例について
先進国では国外転出時課税制度が「Exit tax」等の名目で存在しております。
例えばアメリカでは、2008年度より、アメリカ国籍離脱時または永久権放棄時に200万ドル以上の未実現キャピタルゲインを有する資産を保有する者に対して国外転出時課税制度と類似した制度により課税をすることとされています。
(6)納税管理人の資格について
納税管理人は、非居住者に代わり確定申告書を作成・提出することの他に納税手続き等も行います。
納税管理人は、個人でも法人でも、日本に住所又は居所を有する者であれば就任することができます。
なお、納税者の親族や会社が代理となるケースを除いては、税理士、公認会計士、弁護士等の職業専門家が就任するケースが多いと思われます。
納税猶予制度の提要を受ける場合には、納税管理人の届出を提出をする必要があるのでご留意ください。
(7)国外転出後、5年以内に日本へ帰国した場合の取扱い
国外転出時に国外転出時課税制度の適用を受け納税を行っている場合において、5年以内に帰国した時は、国外転出時課税制度の課税を取り消すことが可能となっており、更正の請求を行うことにより還付を受けることが可能となります。
ただし、還付の対象となるのは、国外転出時課税制度の適用があった対象資産のうち、譲渡等がなかったもののみとなります。
なお、帰国とは、日本の非居住者から居住者になることをいい、日本に単に一時帰国したような場合は当てはまりません。
また、帰国に伴う更正の請求は、帰国から4ヶ月を経過する日までに行う必要がある点、ご留意ください。
【参考法令等】
所得税法60条の2、60条の3
所得税法153条の2
所得税法基本通達2-1
地方税法32条、39条