Question
特定譲渡制限付株式とは何ですか。
また、法人税上の取扱いも教えてください。
Answer
(1)概要
会社役員などの経営陣に中長期の企業価値創造を引き出すためのインセンティブを付与することが重要だと考えられ、株式による報酬の柔軟な活用を可能とするための整備が行われております。
その一つの手法として特定譲渡制限株式に関して税制上の整備が行われました。
特定譲渡制限株式とは、いわゆるリストリクテッド・ストックと呼ばれるものであり、役員又は従業員等の役務提供の対価として一定期間の譲渡制限その他の条件が付されている株式をその役員又は従業員等に交付した場合の所得税の取扱いについて、課税時期はその特定譲渡制限付株式の譲渡制限が解除された日、課税額はその特定譲渡制限付き株式の譲渡制限が解除された日における価額とする規定が整備されました。
これは、譲渡制限が行われている期間において、その特定譲渡制限付株式について処分を行うことができない等の理由があることから改正されたものになります。
この改正に伴い、その特定譲渡制限付株式を交付する法人における取扱いは、給与等課税事由※が生じた日(その特定譲渡制限株式の譲渡制限が解除された日)にその役務の提供を受けたものとして、その費用については同日の属する事業年度において法人税の規定を適用することとする改正が行われました。
なお、給与等課税事由が生じない場合は、損金の額に算入されないこととされています。
※給与等課税事由とは、所得税法等の規定により、その役員等の給与所得、事業所得、退職所得及び雑所得の所得に係る収入金額等に算入されることをいいます。
(2)特定譲渡制限付株式とは
特定譲渡制限付株式とは、役員又は従業員等の役務提供の対価として交付される株式で下記の要件を満たすものをいいます。
<特定譲渡制限付株式の要件>
①その内国法人又は関係法人の譲渡制限付株式であること
②その役務提供の対価としてその個人に生ずる債権の給付と引き換えにその個人に交付されるものその他個人に給付されることに伴ってその債権が消滅するものであること
なお、関係法人とは、その給与に係る株主総会等の決議日において、その日から特定譲渡制限付株式の譲渡制限が解除される日までの間、その内国法人と他の法人との間にその他の法人による支配関係が継続することが見込まれている場合のその他の法人をいいます。
譲渡制限付株式とは、下記の要件を満たす株式をいいます。
<譲渡制限付株式の要件>
①譲渡(担保権の設定そのたの処分を含む)についての制限がされていること。
②譲渡制限期間が設定されていること
③その株式を交付する法人又は親会社によりその株式を無償で取得することとなる下記の事由が定められていること
(イ)その株式の交付を受けた個人が譲渡制限期間内に所定の期間勤務を継続しないこと又はその個人の勤務実績が良好でないことその他その個人の勤務状況に基づく事由
(ロ)その株式を交付する法人の業績があらかじめ定められた基準に達しないことその他のこれらの法人の業績その他の指標の状況に基づく事由
(3)特定譲渡制限付株式による給与の法人税上の取扱いについて
特定譲渡制限付株式の取扱いは給与等課税事由が生じるか否かにより変わることとなります。
・課税関係について
①給与等課税事由が生じる場合
その特定譲渡制限付株式の交付について給与等課税事由が生じる場合には、給与等課税事由が生じた日において役務提供を受けたものとして、法人税の規定が適用されることとされます。
したがって、従業員に対するもの及び役員に対するもので事前確定届出給与に該当する場合には、給与等課税事由が生じた日の属する事業年度の損金の額に算入されることになります。
なお、過去に受けた役務提供の対価として生ずる債権に係る債務を履行するために譲渡制限付株式が交付される場合については、事前確定届出給与に該当しないこととされており、損金の額に算入されないこととされます。
また、役員に対して特定譲渡制限付株式を交付した場合には、原則、事前確定届出給与の届出が損金算入の要件となりますが、特定譲渡制限付株式係る給与で将来の役務提供に係るものとしてスケジュール要件を満たすものである場合には、事前確定届出給与の届出が不要とされています。
②給与等課税事由が生じない場合
その特定譲渡制限付株式の交付について給与等課税事由が生じない場合には、その役務の提供を受けたことによる費用の額等については、損金の額に算入されないこととされています。
・役務の提供に係る費用の額とは
役務の提供に係る費用の額とは、その特定譲渡制限付株式の交付について給付され、又は消滅した債権の額(確定した数の株式を交付する場合には、その交付時の価額)に相当する金額をいいます。
なお、この取扱いは特定譲渡制限付株式の交付が正常な取引条件で行われた場合に限られます。
(4)事前確定届出給与に係る届出の提出の要否について
特定譲渡制限付株式(将来の役務提供に係るものとして交付されるものに限られます。)を交付することについて下記の定めを行い、その定めに基づいて交付される特定譲渡制限付株式に係る給与については事前確定届出給与の届出を行うことなく、損金の額に算入することができます。
(イ)その役員の職務につき株主総会等の決議が行われているものであること。
(ロ)上記(イ)の決議において、その役員の職務ついて所定の時期に、確定した特定譲渡制限付株式の交付をする旨を定めがあること。なお、この定めは、上記(イ)の決議日から1月を経過するまでに、その職務につきその役員に生ずる債権の額に相当する特定譲渡制限付株式を交付するものに限られています。
【参考法令等】
法人税法54条ⓛ②
法人税法施行令69条③、111条29
法人税法基本通達9-2-15
所得税法施行令84条①