(1)勘定科目ごとの留意・注意点の概要
決算における処理は、その会社の利益額を決定するものになります。
誤った決算処理を行なってしまえば、決算書の数字を元に計算が行われる申告数値も誤ってくることとなります。
勘定科目ごとにそれぞれ特有の留意・注意すべき点があるので、それぞれ解説を行なっていきたいと思います。
今回は仮払金・立替金勘定について解説を行なっていきます。
(2)仮払金・立替金勘定について
①概要
仮払金は、金銭の支出等は行なっているが、その時点で使用内容が未定なものについて仮払金に計上し、後日内容が確定した際に、適正な勘定科目に振り替える処理を行うケースが多いと考えられます。
仮払金は通過勘定と呼ばれるものになりますが、決算時、適当な他の科目に振り替えを行うべきものになると考えられます。
具体的には下記のような場合、仮払金に計上することとなります。
・従業員が出張を行う際に前払いを行なった旅費の概算経費
一方で立替金は、役員、従業員、取引先等が負担すべき経費を一時的に立て替えを行なった場合に計上される勘定科目になります。
具体的には下記のような場合、立替金に計上することになります。
・取引先が負担するタクシー代を一時的に支出した場合
・役員又は従業員の私的な費用を一時的に支出した場合
似て非なるものであることから、仮払金・立替金勘定の使用については注意が必要となります。
なお、仮払金と立替金とは、決定的に異なる点があります。それは、金銭債権であるか否かになります。
仮払金は、基本的には将来費用となるものを計上することとなります。一方で立替金は、役員等が負担すべき経費を一時的に立て替えているものを計上していることから、将来、その金額について回収を行うべきものになります。
また、立替金は、支出を行うタイミングで何の目的で使用されるかがはっきりとしているものを計上する勘定科目になります。
もちろん、すべてのケースが上記に当てはまる訳ではないですが、これらの基準をベースに、仮払金・立替金のいずれに計上すべきものか検討を行えば、誤りが少なくなると考えられます。
②給与・貸付金認定のリスクについて
仮払金・立替金に計上しているものについて、支出の内容・状況等によっては、その相手に対する給与または貸付金として認定を受けるリスク(可能性)があります。
具体的には、回収が長期に行われておらず滞留している場合がこれに当てはまります。
役員に対する給与として認定を受けた場合、損金の額には算入されず、かつ、源泉徴収漏れに該当することになります。貸付金として認定を受けた場合には、未収利息の認定を受けることとなります。何れにしても、課税を受けることとなりますので、期末時点で残高として残っている仮払金・立替金については、適正な勘定科目に振り替えを行いましょう。
③収益・費用計上の検討について
仮払金・立替金として計上しているもののうち、当期において収益計上・費用計上をすべきものが含まれていないか確認を行う必要があるでしょう。
仮払金勘定の残高の中に寄附金(寄付金)がある場合、税務上寄附金は現金主義により認識を行うため、留意が必要となります。
④立替金の取扱いについて
本来、立替金として処理を行うべき支出について、費用計上することは、もちろん過少申告となるため、費用計上していた場合、税務調査の場面において発覚すれば指摘の対象となることはいうまでもありません。
単純に、支出であるからといっても、一時的に立て替えを行なっているものでないかどうかの確認を行うよう注意が必要です。
⑤実務上の留意点について
実務上、処理を行なったタイミングで支出の内容が不明であることから仮払金に計上するケースがあるかと思います。このような場合、その支出内容が判明したタイミングで精算を行うこととなりますが、そもそもの仕訳を修正するのか、振替仕訳を記帳するかのいずれかの対応になるかと思います。
それぞれ、メリット・デメリットがあると考えられ、内部統制を考えると「振替仕訳を記帳」になるかと思います。
しかし、管理会計上、月ごとの比較を行うのであれば「そもそもの仕訳を修正」すべきだと考えられます。(すべてがこれに当てはまる訳ではないですが。本当に仮払いを行い、費用の発生が翌月であれば、翌月の費用として認識するため「振替仕訳を記帳」を選択すべきと考えられます。)
もちろん精算が期をまたぐ場合は、「振替仕訳を記帳」をするしかありませんが、前期以前の費用である場合には、更正の請求等の対応が必要になるケースもあります。(ただし、費用の後ずれであることから、税務リスクとしては大きくないと考えられ、対応は金額等の状況により検討すべきでしょう。)
内部統制が厳しい上場企業等は、そもそもの仕訳を修正することができない可能性がありますが、どのように仮払金の処理を行うべきか、メリット・デメリットを考慮した上で検討すべき事項になると考えられます。
(3)まとめ
仮払金・立替金勘定について解説を行いました。
これらの科目は似て非なるものであり、かつ、仮勘定であることから租税回避行為の温床となる科目になるため、その処理方法については十分注意を行う必要があるでしょう。
もし、可能であれば、仮払金勘定を使用しないため、経費については給与精算等を行うことも一つの案になるかと思います。