(1)勘定科目ごとの留意・注意点の概要
決算における処理は、その会社の利益額を決定するものになります。
誤った決算処理を行なってしまえば、決算書の数字を元に計算が行われる申告数値も誤ってくることとなります。
勘定科目ごとにそれぞれ特有の留意・注意すべき点があるので、それぞれ解説を行なっていきたいと思います。
今回は有価証券勘定について解説を行なっていきます。
(2)有価証券勘定について
①概要
有価証券はその保有目的や属性により処理が異なることとなり、税務上の論点も多いことから、その処理について慎重に検討を行う必要があります。
持文割合が100%である場合(間接保有を含む)、グループ法人税制の適用対象となり、下記のような取扱いが適用されることとなります。
・一定の資産の譲渡については課税の繰り延べがされる
・配当については全額益金不算入
・寄付・受贈については全額損金不算入・益金不算入
また、組織再編等により有価証券を取得した場合、税務と会計でその取得価額が異なり税務調整が必要になることがあるので、この点についても十分留意が必要です。(もちろん、通常の取得でも、税務と会計でその取得価額が異なることはあります。)
②会計上の有価証券の取扱い
有価証券について保有目的を下記の4つに区分して、それぞれの区分に応じて評価を行うこととしています。
区分 | 処理方法(中小企業の会計に関する指針による) |
売買目的有価証券 |
時価の変動により利益を得ることを目的としている有価証券をいいます。 売買目的有価証券に該当する有価証券は、時価を持って貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損益(営業外損益)として処理をすることとされています。 |
満期保有目的の債券 |
満期まで所有する意図をもって保有する社債その他の債券(満期まで所有する意図をもって取得したものに限る。)をいいます。 満期保有目的の債券については、取得原価をもって貸借対照表価額とするとされています。 ただし、 取得価額と債券金額の差額が金利の調整と認められるときは、償却原価法により処理することとされています。 |
子会社株式・関連会社株式 |
取得価額をもって貸借対照表価額とするとされます。 |
その他有価証券 |
上記3つの区分に該当しない有価証券をいいます。 <市場価格のある場合> 時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額(税効果考慮後の額)は洗替方式に基づき、全部純資産直入法又は部分純資産直入法により処理することとされています。 ただし、市場価格のあるその他有価証券を保有していても、それが多額でない場合には、取得原価をもって貸借対照表価額とすることもできるとされています。 <市場価格のない場合> 取得原価をもって貸借対照表価額とするとされています。 なお、債券について、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額とするとされています。 |
③法人税上の有価証券の取扱い
法人税においては、有価証券を下記の3つに区分されます。
また、譲渡原価は下記の区分ごとに、かつ、銘柄を同じくするものごとに移動平均法又は総平均法のうちいずれか法人が選択した方法により計算を行います。(法人税法施行令119条の2)
・売買目的有価証券(企業支配株式に該当する有価証券を除く。)
・満期保有目的等有価証券
・上記以外の有価証券
④取得価額(付随費用)について
有価証券の取得価額は購入代価に購入手数料その他の有価証券を取得するにあたり要した付随費用を加算した金額とされています。(法人税法施行令119条)
ただし、有価証券を取得するために要した通信費、名義書換料については、有価証券の取得価額に含めず、費用計上することができます。(法人税法基本通達2-3-5)
また、取得価額に含めるか否かの論点として、デューデリジェンス費用などが挙げられます。
買収会社へのアプローチ等にかかる費用、自社と買収会社の業務シナジーの測定業務などの、買収前に行われる調査費用については、取得を行うか否かの判断を行うために要した費用であり、有価証券の取得に要した費用とはいえないことから、基本的には、費用計上することができるものであると考えられます。
しかし、実際に買収が決定した後に行われるデューデリジェンス費用などについては、有価証券を取得するために要した費用であると考えられることから、その有価証券の取得価額に含める必要があると考えられます。
④その有価証券が外国法人にかかるものである場合の留意点
外国法人を子会社・関係会社として有している場合、「移転価格税制」「タックスヘイブン対策税制」について適用があるかどうかを検討する必要があるでしょう。
・「移転価格税制」について
その有している子会社等が国外関連者に該当するか検討を行う必要があるでしょう。
国外関連者該当する場合には、その子会社等と行なっている取引が独立企業間価額により行われているかどうか、行われていない場合には不必要な課税を受けることから、十分留意する必要があるでしょう。
・「タックスヘイブン対策税制」について
その有している子会社等が外国関係会社に該当するか検討を行う必要があるでしょう。
外国関係会社に該当し、かつ、軽課税国である場合には、適用除外要件を満たさない限り、タックスヘイブン対策税制の適用を受けることとなり、合算課税の対象となりますので、十分留意する必要があるでしょう。
⑤他の制度との関連性について
「所得税額控除制度」「受取配当等の益金不算入制度」「子会社配当等益金不算入制度」などの制度においては、その有価証券の保有期間等により、同制度の適用を受けるか否かの判定や、適用金額が異なることとなることがあります。
そのため、会社が保有している有価証券について、その有価証券の保有期間が重要な論点となることがあり、当期において有価証券の売買を行なっている場合には、売買契約書等により取得日や譲渡日を確認する必要があるでしょう。
(3)まとめ
有価証券勘定について解説を行いました。
今回解説を行なった論点以外にも論点が存在することから、有価証券の処理については十分注意して行うようにしてください。(別記事にて解説予定)