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Question

海外の子会社株式を処分する場合、売却する方法と子会社を清算する方法のどちらを選択すべきでしょうか。

Answer

(1)子会社株式の売却と子会社清算

経済のグローバル化に伴い日系企業の海外進出が増加する一方、経済情勢の不安定化等の影響により、海外子会社の事業の再編・売却・ 撤退等を検討する必要性が生じることがあります。
海外からの事業撤退の選択肢としては、大きく分けて子会社売却と清算の2つの方法があります。

 ①子会社株式の売却

子会社株式を売却する場合には、その子会社のデゥーデリジェンス(以下「DD」という。)が通常行われます。
DDとは、買い手がM&Aを最終判断するにあたり、公認会計士や弁護士が会社の実態を把握するために行う企業の精密調査であり、通常、売り手と買い手が最終合意に向けてお互いに協力し合うことを約束する基本合意締結後に行われます。
DDには、法務DD、財務DD、税務DD、人事DD等多数の実施項目があります。
例えば財務DDは、M&A取引において、対象会社または事業の財務についてその状況、リスク、課題を検討する調査です。
一般に対象会社の過去の一定期間における財政状態、経営成績、及びキャッシュフローの分析等を通じて、当該M&A取引価格や投資意思決定に資する情報の提供を行います。
以上の通り、子会社株式売却を行う場合には、DDの手間は要しますが、取引としては株式を譲渡するだけですので、取引プロセスはシンプルなものとなります。

 ②子会社清算

子会社清算を行う場合には、清算の法的手続きに多くの時間を要します。
これは、清算条件となる各国税務署による調査に多くの時間がかかることに起因するもので、特に、新興国においてはその傾向が顕著であり、清算完了まで数年の期間を要することも多いです。

以上より、全体的な手続きの煩雑性及び要する期間に鑑みると、海外子会社を清算するよりも売却する方が手間がかからないと言えます(DDは通常1〜3ヶ月程度の期間で実施されますので、資料準備等短期間の手間は要します)。

(2)子会社株式の売却と子会社清算の選択のポイント

税務の観点からは、子会社株式を売却するよりも清算する方が有利な結果になることが多いです。
子会社株式売却の場合は、株式売却価額と純資産価額(純資産価額=売却価額とすると)の差額全額が譲渡益となり、日本の法人税率で課税が生じます。
一方、清算の場合には、清算時時価と純資産価額の差額のうち、みなし配当部分は95%配当益金不算入が適用されますので、税務メリットを享受できます。

(3)債権放棄について

例えば、日本親会社が債務超過の海外子会社に対して債権を保有している場合に清算を実施する場合においては、日本親会社が清算時にその債権を放棄することが実務上多く行われます(債権放棄損を計上する)。
この点、単純に親会社が債権を有する海外子会社の清算により債権の一部が法的に回収不能となった場合には通常は貸倒損失に該当するものと考えられますが、法人税基本通達9-4-1においては、親会社が子会社等の解散等に伴い、債務の引受け、債権の放棄その他の損失を負担した場合においても、それが今後より大きな損失の生じることを回避するためにやむを得ず行われたものであり、かつ、そのことが社会通念上も明らかであると認められるような事情があるときは、税務上もこれを寄附金として取扱わない旨が明らかにされております。
よって、当該規定に当てはまるか否かの社内での検討及びそれを補足する適切な疎明資料を用意しておく必要があります。

【参考法令等】

法人税法基本通達9-4-2

 

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