(1)所得税の特定支出控除の概要
「特定支出控除」とは、給与所得者が特定の支出をした場合、その年の特定支出の額の合計額が、「特定支出控除額の適用判定の基準となる金額」を超えるときは、確定申告によりその超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引くことができる制度です。
要は、一定の支出がある場合、通常の給与所得控除に上乗せして控除が認められる制度になります。
(2)所得税の特定支出控除の趣旨
給与所得の金額は、給与収入に応じた個々の経費を実額で控除して計算を行うのではなく、給与収入の金額に応じた法定の給与所得金額を控除することで、所得計算を行うこととされています。
給与所得の計算については、給与収入の金額から概算金額である給与所得控除額を控除することとなっているのは、給与所得者の必要経費の有無及びその範囲等を客観的に証明することが困難であることが理由となっております。
一方、給与所得者は、給与所得者として勤務することに伴って、給与所得者特有の支出を行なっていることも事実です。
そこで、特定支出控除制度は、給与所得者の勤務に伴う一定の支出については、その支出した実額で控除して給与所得計算を行うことを認めている制度になります。
(3)所得税の特定支出控除の対象となる特定支出について
特定支出控除の適用対象となる支出は下記のような支出になります。なお、給与の支払者から補填される部分があり、かつ、その補填される部分に所得税が課税されていないときは、その補填される部分及び教育訓練給付金、母子(父子)家庭自立支援教育訓練給付金が支給される部分がある場合における当該支給される部分は特定支出から除かれます。
① 一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出 (通勤費)
② 転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出 (転居費)
③ 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出 (研修費)
④ 職務に直接必要な資格を取得するための支出 (資格取得費) ※弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費も特定支出の対象となります。
⑤ 単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出 (帰宅旅費)
⑥ 次に掲げる支出(その支出の額の合計額が65万円を超える場合には、65万円までの支出に限ります。)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者より証明がされたもの (勤務必要経費)
1. 書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用 (図書費)
2. 制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用 (衣服費)
3. 交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出 (交際費等)
(4) 特定支出控除額の適用判定の基準となる金額
給与所得者のその年中の特定支出の額の合計額が「特定支出控除額の適用判定の基準となる金額」を超える場合に、確定申告によりその超える部分の金額を更に差し引くことができます。
「特定支出控除額の適用判定の基準となる金額」は、下記の算式により計算した金額になります。
その年中の給与所得控除額 × 1/2
給与所得控除は、下記の表に当てはめて計算を行います。
給与等の収入金額 (手取りではなく総額) |
給与所得控除額 |
1,800,000円以下 |
収入金額 × 40% ただし、650,000 円に満たない場合には650,000円 |
1,800,000円超 3,600,000円以下 | 収入金額 × 30% + 180,000円 |
3,600,000円超 6,600,000円以下 | 収入金額 × 20% + 540,000円 |
6,600,000円超 10,000,000円以下 | 収入金額 × 10% + 1,200,000円 |
10,000,000円超 | 一律2,200,000円 |
(5)所得税の特定支出控除の具体的な事例について
給与収入(手取りでなく総額)が600万円の場合
①給与所得控除額:6,000,000円×20%+540,000円=1,740,000円
②特定支出控除額:特定支出額 - 1,740,000円 × 1/2
特定支出控除の適用を受けるには、以上のように給与収入が600万円の場合には、1,740,000円×1/2=870,000円以上の特定支出が必要となります。
(6)所得税の特定支出控除のその他留意事項
特定支出控除の適用を受けるためには、確定申告を行う必要があります。
その確定申告を行う際、特定支出に関する明細書など一定の書類を添付する必要があります。具体的には下記に列挙している書類の添付が必要となります。
・特定支出に関する明細書
・給与の支払者の証明書搭乗・乗車・乗船に関する証明書
・支出した金額を証する書類
・給与所得の源泉徴収票
(7)所得税の特定支出控除のまとめ
給与所得者の所得税の計算は基本的に優遇されています。(給与所得控除が多額であることから、これを超える経費の出費はあまり想定されないため。)
それでも、一定の支出をされていることも想定されます。このような場合、この特定支出控除を活用してはいかがでしょうか。
平成24年度において行われた改正により、この制度の使い勝手も良くなっていますので、検討をしてみることをおすすめいたします。
【参考法令等】
所得税法28条、57条の2